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納得できる相続財産の分け方とは

相続という言葉は、しばしば「争族」などと表記されます。
それだけ、遺産相続をきっかけに親族が争ったり、もめごとが続くケースは身近にあるのです。「うちには揉めるほどの財産はないから・・・」
「うちの家族はそんなことにはならない」と思っていませんか?

 

相続争いは、テレビドラマに出てくるような大金持ちの一族にだけ起こることではありません。
財産の多い少ないにかかわらず、誰もが直面する可能性があります。
相続は、被相続人、相続人の状況に応じて千差万別であり、「これが一番良い」という理想を示すのは難しいものです。

 

ただ、相続人同士がもめずに遺産分けができ、それぞれの立場から被相続人に感謝できるような相続にしたいものです。
どうすれば「納得できる」財産の分け方ができるのでしょう?

“公平”な遺産分割のテクニックとは?

まず、“公平に”分割する方法をお伝えします。
自宅、農地、事業用資産といった分割しにくい財産を、いかに公平に分けるかがポイントです。
遺産分割にはいくつかの方法がありますが、主なものは次の4つです。これらを適宜組み合わせ、相続分に合うように財産を分配します。

POINT.1
現物をそのまま分配する方法

「自宅は妻に」「預金は長男に」など、個々の財産をそのまま分配する方法です。
遺産分割の原則的な方法であり、それぞれの相続人が納得すれば一番手間のかからない方法ではありますが、公平な分割がしにくい場合もあります。

POINT.2
財産を売却して金銭に換え分配する方法

現物では分割しにくい財産を現金化して分割できますが、売却益に対して税金がかかるので注意が必要です。

POINT.3
相続分を超える財産を取得した相続人が、超えた分を他の相続人に金銭で払う方法

例えば、主な遺産が5,000万円の住宅で、現在住んでいる長男がそのまま引き継ぐとします。
この場合、長男が、次男に、半分の2,500万円を支払えば丸く収まります。
事業資産など、承継者が一括で取得すべき財産の分配に便利です。
しかし、代償金を負担する相続人に支払い能力があることが前提となります。

 

POINT.3
複数の相続人で持分を定め共有する方法

共同使用する別荘など、主に不動産の分割に便利です。
公平な分割は可能ですが、利用や処分の自由度が下がります。
※共有の物件は持分権利者全員の合意がないと売却できないため。
共有者に次の相続が起こると権利関係が複雑になるなどのデメリットもあるので、安易に共有にするのは好ましくありません。

分け方は、法定相続分通りでなくてもよい

遺産の分割は、法定の相続分に則して行うのが原則です。
しかし、相続人全員の合意があれば、法定相続分と異なる分割をしても構いません。
財産の性質や相続人の事情を考慮した分割をするということも、考えてみれば“公平”であると言えるのではないでしょうか。

 

例えば、他県で長く会社に勤めている息子さんが実家の農地を相続しても困ります。
また、経済知識に疎い妻が株式を相続してもうまく運用できないかもしれません。
「被相続人と同居していた妻が、不動産を取得して引き続き居住する」
「家業を継ぐ長男が事業用資産と自社株式を相続する」
など。

 

それぞれの財産と相続人の実情に合わせた分割方法をとることが重要です。
金銭的に平等・公平でなくても、諸事情を考慮して各相続人が納得できる分け方ができれば良いのです。
法定相続分による権利をことさらに主張して、親族が争うことになるほど悲しいことはありません。
お互いの譲り合いの精神が必要です。

借金など、マイナスの遺産はどうすればいいか

債務(借金やローン、未払いの公共料金など)は、好きなように分けることができません。
法定相続分と異なる遺産分割協議内容は主張できないのです。
しかし、実務上は、誰がどう負担するのか、きちんと決めておく必要があります。
もっとも、これは相続人間の取り決めに過ぎず、債権者には通用しません。

 

例えば、兄弟2人で、自宅の不動産を取得した兄が、住宅ローン残金1,000万円を負担する取り決めをしたとします。
この時、銀行は弟にも500万円の支払いを求めることができます。
弟は、「兄が支払うことになっている」と主張して銀行に対抗することはできません。
もしも兄に1,000万円を払う資力がなかった場合、銀行には“取りっぱぐれ”が発生してしまうからです。
債権者保護の観点から、このような銀行の対応は認められているのです。
このような場合、債権者に遺産分割協議内容を承認してもらう、もしくは、弟が銀行に500万円を支払い、その分(500万円)多めに相続することで、解決する可能性があります。

家族それぞれの事情を思いやる

揉めない相続をするために、特に重要なのは、それぞれの相続人が置かれた状況を考慮することでしょう。
相続人の状況はいろいろです。
親から生前に多額の財産をもらってマイホームを購入した人、亡くなった親と同居して介護などの世話をずっとしていた人、障害のある相続人など様々です。

 

遺産分割協議では、まず相続人同士がお互いの状況の情報を共有し、理解し、思いやって、遺産の具体的な分配の仕方を考えることが大切です。

 

親から生前に多額の財産をもらって家を建てた人は、他の相続人から指摘される前にそれを明らかにした方が良いでしょうし、亡くなった親と同居して長く介護をしていた相続人には、その貢献をできるだけ遺産分割に反映させることも考慮したいものです。
障害のある相続人には将来の生活を見越した財産の量であったり、場合によっては他の相続人が成年後見制度を活用して後見人を務めたりする必要があるかもしれません。

まとめ役とコミュニケーションが重要

相続は、感情的な対立になると、具体的かつ現実的な思考が忘れられがちです。
本心ではそこまでのことを思っていなくても、感情のぶつかり合いでその時の主張を後に引けなくなり、余計にこじれてしまうなんてこともあります。
揉める原因は、「不安」と「不信感」にあります。
ここを払拭するだけで、大きく変わると考えています。

 

トラブルを避け、円満に分割するために大切なことは、まずは「今後のスケジュールを伝えること」と、「財産の全容を明らかにする」ことから始まります。

 

財産の状況はいつ分かるのか、相続人間の話し合いはいつ頃か、申告の時期がいつなのかなど、今後どんな手順でどうなっていくかという情報を共有する必要があります。
また、他の相続人が知らない財産を同居していた親族が隠していないかという想像から生まれる不信感には、できるだけ早く「財産目録」を作成し、オープンにすることです。
更にそれは、自分で作成するよりは専門家が作成したものの方が信頼性は増すでしょう。
もちろん、揉めることが予想されるような場合には、生前から遺言などの方法で対策しておくことも必要です。

 

しかし、何を置いても、普段からのコミュニケーションが一番の対策となります。
普段から密にやり取りをし、お互いの状況や事情を思いやる心を持つことで、いざという時に不安や不信感よりも、 信頼感と深い絆が生まれることでしょう。